アフリカの小さな村にボボさんという気の優しいおじさんが住んでいました。
ある日ボボさんは久しぶりに村のはずれまで散歩に出かけました。
途中、大きな岩があったので、その脇に座って休憩しました。
すると「クゥ〜クゥ〜」となにやら泣き声が聞えました。
見ると、眼の横に小さな傷のあるトラの赤ちゃんが泣いています。
どうやらお母さんとはぐれてしまったようです。
ボボさんはトラの赤ちゃんを抱きしめました。
トラの赤ちゃんは安心したのか泣くのをやめ、ボボさんの顔をペロペロとなめだしました。
ボボさんは、お母さんトラが現れるのを、その場で待ちました。
ずっとずっと待ちました。
5日間も待ちました。
しかしお母さんトラは現れません。
ボボさんは、仕方無く、トラの赤ちゃんを家に連れて帰りました。
ボボさんはトラの赤ちゃんを"ペペ"と名付け、可愛がりました。
一生懸命、大事に大事に育てました。
様々な栄養のある食べ物を与え、具合が悪くなれば、寝ずの看病をしました。
おかげでペペは立派なトラに育っていきました。
ボボさんとペペはよく野原でじゃれあって遊びました。
ボボさんがボールを投げると、ペペは必ずそれを走って取ってきて、ボボさんの前に誇らしげに置きました。
そんなペペにボボさんは、いつもその場で頭をさすってやり、ご褒美として食べ物をあげていました。
月日は経ち、いつしかペペは小柄なボボさんと同じくらい大きく育ちました。
ボボさんは思いました。
"ペペはこのまま自分と一緒に暮らし続けるのは良くない、野生に戻るべきだ"と
ボボさんはある朝決意しました。
"今日こそペペを野生に戻そう"と
ボボさんはペペを連れて村のはずれまで出かけました。
そしてそこでペペを座らせ、こう言いました。
「お前はいつまでも私と暮らしていてはいけない、もう大人になんだ、トラの世界に戻りなさい」と
そしてボボさんは涙をこらえながら、そこにペペを残し、走り去りました。
ペペはボボさんの言葉を理解したのかボボさんを追いません。
しかし出会った時のように「クゥークゥー」と泣きました。
そして10年の月日が経ちました。
ボボさんは久しぶりにペペと出会った村のはずれの大きな岩がある場所まで散歩に出かけました。
その岩は昔となんら変わっていませんでした。
ボボさんは岩の脇に座り、ペペの事を思い出しました。
するとあろうことか向こうから大きな大きなトラが近づいてきます。
良く見ると眼の横に小さな傷があります。
そうです、それはまさしくペペでした。
ペペは立派に大きく大きく育っていました。
およそ、ボボさんの倍の大きさはありました。
ボボさんはそんな立派なペペを見ると眼に涙が溢れ出しました。
ボボさんは叫びました。
「ペペ!」
10年ぶりの再会です。
するとペペはボボさんの元へ歩み寄ってきました。
ペペはその口に大きなうさぎをくわえていました。
今日の獲物です。
少々残酷に見えますが、皆、生きていくために仕方の無いことです。
ペペはボボさんの前までやってきました。
そして、その口にくわえたうさぎをボボさんの前に置きました。
ボボさんは、かつて自分の投げたボールを走って取って来て、自分の前に誇らしげにおく無邪気なペペを思い出し、ペペの頭をさすりました。
すると、口にくわえたうさぎを置いたペペは、その場で・・・・・
ボボさんを食べてしまいました。
愛の一方通行。