いつの頃から、どうしようもない事で笑っていられた日々が減っていったのだろう。
そういえばあの頃は本当にバカバカしい事で笑っていた
19の頃やっていたバンドはなにかというとメンバーの家に集まってミーティングをしていた。
自分達は何故うまくいかないのか?
もっと何々をこうするべきではないのか・・・
それにしても、なんであんなバンドが売れているのか?
などと・・・
要するにメジャーなものへの嫉妬、グチ。
そして明日になれば忘れられてしまう、決して達成される事のない理想論。
僕はそういうミーティングが大嫌いだった。
何一つ前進に繋がらなかったからだ。
理想ばかりで、リアリティーがない。
それどころか、酒の勢いで、それまでは考えても無かったはずの、もっともらしい意見がやりとりされ、起きる必要もなかった問題が生まれだす。
そういう飲み会が大嫌いなのだ。
ちなみに、よく、うらぶれた飲み屋などで交わされる、劇団員やバンドマンの
「今の日本はさぁ〜おかしいんだよ、いい物が売れくてさぁ・・・・売れ線ばっかりで・・・」
のような会話も大嫌いだ、自分も日本人なのに。
負け犬の遠吠えにしか聞えない。
売れているものには、それなりの努力と理由があるはずなのだ。
しかし、そんな無意味なミーティングに、
メンバーであるギターリストから意外な一石が投じられた。
「とりあえずよ〜ロックだからよ〜アメリカで流行ってるらしい飲みゲームしない?本当はバーボンでやるんだけど、キツイからビールでやろう!」
ゲームの方法とは、
メンバーが円を作って座る。
各自の前に自分担当のコップを置きビールをついでおく。
それを真中に集める、すると真中にスペースが出来るので、そこにもうひとつ誰のものでもないコップを置き、ビールをついでおく。
そしてコインを用意する。
メンバープラス1個のビールとコインで準備完了。
ゲーム開始。
順番にコインをテーブルに打ち付けて跳ね返ったコインを誰かのコップに入れる。
コインの入ってしまったコップの人はそれを一気飲み。
ここまではおだやか。
問題は真中のコップにコインが入った時。
この時は全員で自分のビールを一気飲みし、すばやくコップをテーブルに置く。
そして一番遅かった人はバツとして、真中のビールも飲まなくてはならない。
今思えばただつらいだけのゲームなのだが、
これが燃えた、そして死ぬ程笑った。
バンドに笑いが戻った。
ミーティングの後のこのコインゲームは恒例となった。
あまりにエキサイトし過ぎてビールをこぼしていまうので、床に新聞紙をひいてまでやるようになった。
いつの日か、ミーティングよりもコインゲームの方がメインとなってきた。
部屋に入ると、すでに床に新聞紙がひいてある程であった。
これによってバンドが良い方向に向いたとは言えないが、少なくとも愚痴ばかりたれている、ダメバンドマンからは抜けつつあった。
僕の中でもこのコインゲームはヒットだった。
今思えば、この時にある程度酒に強くなったのかもしれない。
そして僕はこのコインゲームを、たまにある自分のバンドのミーティングだけでやる事に、物足りなくなり始めた。
そして大学生でもないのに、手伝っていた大学のバンドサークルの世界にまでこのゲームを持ち込んだ。
高校受験の抑圧から解放されたての、まだ夢と希望しかない大学のサークルに、このゲームはピッタリだった。
打ち上げの席はいつもビールまみれだった。
そんなある日、また大学サークルの打ち上げの場で、5,6人で、このコインゲームをやっていた。
そしてルール通り一気飲みを繰り返し、酒も回り、最高潮に盛り上がってきた。
そんな折、なんとビールが切れた!
おおいに盛り上がってきたところなのにビールが切れた!
俺らは、酒が飲みたいというよりもゲームを続行したかった。
どうしても続行したかった。
しかし見渡す所酒がない。
あぁ〜液体さえあれば・・・・・
液体さえあれば続行出来るのに・・・・・
あった!
あまりにゲームに夢中になるがあまりに、手をつけられる事のなかった食べ物・・・
あった!液体・・・・
鍋
ここからは作ってくれた人には本当に申し訳ない、おぞましい悪乗りゲームが始まった。
コインゲーム特別ルール(鍋バージョン)
各自、自分のコップに鍋のスープのみを入れる。
真中のコップには鍋の具を入れる。
この後はビールと同じ。
コインが入った人はスープを一気飲み。
真中に入ったら、スープを飲むのが一番遅かった人が、バツとして真中の具を一気食い。
なんとバカげたゲームなんだ!
なんとバカげた!
「っていうか、負けると具の一気食いって、負けた方がいいじゃん!!具も食いてぇ〜」
俺らは、あまりのバカバカしさに、腹を抱えて、涙を流して笑った。