しかしながら、人生でいう向かい風を受け、
つらいと思った事は何度かあった。
とは言っても、落ち込んで動きがとれない・・・
などという事態にまでなった事はない。
人生でいう向かい風。
実は結構好きである。
なぜなら・・・
向かい風を受ける時、
人は大きく前進するチャンスを得られる。
と思っているからである。
僕自身、"成長したかもなぁ〜"などと思う時は、
必ずと言っていい程、向かい風の後である。
そんな時は、むしろ、向かい風に感謝すらする。
そして、逆に言うならば・・・
順風すぎると、
気付けば後退している恐れがある。
とも思っているからである。
ノルウェーの諺にこんな言葉がある。
「順風に寝ている者は逆風に漕がねばならぬ」
まとを得た諺である、ちょっと耳が痛い。
順風の時にこそ漕がねばならないのだろうが、これが難しい。
順風の時、ついつい寝てしまう気持ちもよく解る。
ここは、直したいと思う自分の一面である。
しかし僕の向かい風にふかれた時のパワーは我ながらすごい。
「あ〜ぁ」と考え込む間も無く、恐ろしい勢いで漕ぎだす。
ひょっとしたら順風の時よりも速いんじゃないかというスピードで。
だから、いつもじゃ困るが、たまにふく向かい風は悪くない。
向かい風がふくと、この後どうなるんだろう?
とワクワクする時すらある。
そして、向かい風がふくと思い出すいくつかの諺がある。
"今、自分は向かい風に吹かれているのではないだろうか?"
と思っている人にもお勧めである。
道に迷う時こそ道を知る時だ。 ・・・東アフリカの諺
あまり考え過ぎる者はあまり仕事をしなくなる。 ・・・ドイツの諺
馬が彼を振り落としたが、彼はすみれの茂みに落ちた。・・・ドイツの諺
どうだろう?こうして考えると向かい風など大した事はない。
そしてここでひとつ、これらを踏まえて人生の目標にしたい、
とても的を射た諺をひとつ。
二十歳のときハンサムでなく、
三十のとき強くなく、
四十のときに財がなく、
五十のときに賢くなければ、
結局一生なんでもない ・・・イギリスの諺
人生でいう向かい風。
実は結構好きである。
本来ならここでコラムは終わりである。
しかし理想論ばかりでなく現実を少々付け加えようと思う。
"人生でいう向かい風、実は結構好きである"
などと言っていられる間は、
実は本当の向かい風に直面していないからでもある。
今から約2年前、僕の古くからの友人が突然、
本当の向かい風に直面した。
SET(劇団名)に所属していた彼は舞台の途中、
突然の腹痛で倒れ病院に運ばれた。
病名は、大腸癌、そして肝臓への転移、余命1年。
皮肉にも「ガンファイター」という癌と戦う青年の
舞台を終えたばかり・・・
その時、新婚の奥さんとの
「癌になったらお互い告知しよう」との約束通り、
若干32歳の彼には、すぐに癌の告知がなされた。
新婚そして子供が出来たばかりの彼にとって
この告知が、どれほどの向かい風であったかは、
僕には想像すらつかない。
彼は音楽もやっており、実は僕とエンリケさんとの2人で
リズム隊として参加した事もある。
そんな仲だった僕はよくお見舞いに行った。
正直、余命1年を告げられている彼に向かって、
どんな言葉をかけていいのかわからず、
結局、自分の人生相談をし、
僕の方が励まされてばかりいた。
実際彼は非常に強い人間で、
向かい風となった癌に公然と立ち向かっていた。
一時退院していた時も、体は相当痛かったはずなのに、
なんと、ライブや、テレビの仕事をしていた。
傍目には彼が病気である事を忘れるくらいであった。
しかし、病魔は彼の体を蝕み続けていた。
昨年の12月、彼の体にいよいよ大きな異変が現れだした。
そして、そんな時ですら、彼は見舞いに来たはずの僕に、
様々な力強いメッセージをいつも送った。
「人間我慢する時も大事だし必要だ、
しかし好きな事をちゃんとやった方がいい」
彼は口癖のようにこのセリフを連発した。
そして1月、いよいよ彼の記憶は怪しくなった。
彼が僕にくれた最後のメッセージは
「ムーヤンは大丈夫」※ムーヤン10年前の僕のあだな
実際この言葉は僕のその後に大きな影響を与えた。
今年1月31日彼は癌との想像を絶する
壮絶な戦いの末に亡くなった。
彼は本当の向かい風と戦い、
亡くなる時ですら、皆にパワーを与えていった。
ここで最後に、葬儀の時に配られた、
彼が皆に残した人生12の教訓を紹介したい。
1 成功の秘訣は思うことの一念。
2 決めた事は直ちに行え、仕事の成果はスピードに比例する。
3 チームワークとは正確機敏なる連絡と報告である。
4 立派な挨拶が出来る人は仕事が出来る人である。
5 計画なきところに行動なし。
6 高付加価値=「違い」の創造。
7 自己啓発のポイントは謙虚に学ぶ姿勢である。
8 準備の良否が成果を決定する。
9 プロとは結果で勝負する人である。
10 時間不足は知恵不足だ。
11 人間は経験と失敗が繰り返されるたびに人生観が肉付けされていく。
12 自助努力を積み重ねていくとピンチがチャンスに変わる時がくる。
以上、
向かい風と戦い続けた、
役者であり、ボーカリストであった彼が
常日頃自分に言い聞かせており、
最後に皆に伝えた教訓である。
向かい風。