先日、近々ソニーよりデビューする、なおとのデモCDのレコーディングに呼ばれた。
前もってどんな曲を演奏するのかという、資料のMDをもらっていたのだが、よくあるデーターとびで、全く聞けなかった。
しかしながら、2月にも、彼のライブで売る用のCDレコーディングに呼ばれており、その時も、その場で曲を聞いて、問題なくレコーディングを終えたので、今回も、その場で聞いて演奏すればいいだろうと、リラックスしきってスタジオに向かった。しかも、その日の朝まで飲んでいた。
今回のCDは3曲入りで、3曲ともドラマーもベーシストも違い、僕はスケジュールの関係で、3番目にレコーディングすることになっていた。
スタジオに着くと、まだ前の曲のレコーディングの真っ最中だった。
暇なので、その様子を見る事にした。
そこには、2月の時とは違い、多くのソニーの関係者が集まっていた。
そして、皆、なにやら大喜びしていた。
なんだろうとスタジオ内を見ると、そこには、ミュージシャン界では有名な、そうる透がドラムをバシバシ叩きまくっていた。
そして、ベーシストも名前は忘れてしまったが、大御所の人がチョッパーを弾きまくっていた。
皆、その演奏の迫力に喜んでいたのだ。
スタジオミュージシャンとして食い続けてきた40代の演奏はそれはすごかった。
しかも、ものすごくファンキーな曲で、ものすごくファンキーな演奏だった。
僕は正直あせった。
こんな人達の次に演奏するのは、やりにくになぁ〜と。
しかもロックばかりやってきた僕にとって、そのファンキーな演奏は刺激的だった。
せめて、僕が叩くことになっている曲は、ロックか、歌ものであってくれ、と祈った。
なぜなら、彼らの後に、僕が似たような曲を演奏すれば、そこには当然、比較される、という現象が起きるに決まっていると思ったからだ。
大御所の演奏に見入っている暇もなく、スタッフにMDのデーターがとんでいた事情を話し、もう1度、MDをもらうと、それを聞きに別室へ向かった。
今から僕が演奏することになっている曲を憶えるためだ。
レコーディングの多くは、先に、簡単な打ち込みの音源があり、それを元にレコーディングを進めていく場合が多い。
MDをかける前に僕は祈った、ロック調の曲であってくれ!と。
MDをかけた。
聞こえてきた曲は、めっちゃファンキー!!めっちゃファンキー!!
しかも、今、大御所達が演奏している曲に、めっちゃ似てる!!めっちゃ似てる!!
僕はあせった・・・ やりにくい・・・。
心の中で、「大御所、ついでに、この曲も演奏してけよ!」
なんて、弱気な気持ちまで、出だした。
スタジオに戻った。
ソニーの人に「どう?」なんて聞かれ、 「カッコイイ曲じゃないですか!」 などと余裕の言葉を返したが、心の中は不安でいっぱいだった。
大御所のリズムが録り終わると、そこに元ストリートスライダースのギターの蘭丸さんがやって来て、ギターを重ねていった。
蘭丸さんは、そうるさんのドラムの曲でも、僕のドラムの曲でもギターを弾く事になっていた。
蘭丸さんがギターを弾き出すと、そのプレーのすばらしさに、スタジオ内は湧いた。
湧けば、湧く程、その声は、僕にとって大きなプレッシャーとして、のしかかってきた。
ベースの方は、仕事を終え、帰ったのだが、そうるさんは帰らなかった。
帰らないどころか、蘭丸さんへ、いろいろ意見を述べはじめた。
僕が第三者なら、仕事も終わったのに、熱い人だなぁ〜と感心するところだが、 この後、演奏する僕にとっては、その存在は邪魔でしかたがなかった。
聞こえないように「帰れ」コールをしたのだが、全く帰る気配はなかった。
ギターも録り終え、あらためて、その曲を皆で聞き直した。
そのすばらしい演奏にスタジオ内は湧いた。
その直後 「じゃ次は牟田君の番だね!」 とソニーの人に言われた。
やりにくい。 やりにくい。 やりにく〜い。
こりゃ荒手のイジメか、ムタつぶしかぁ〜とさえ思った。
ドラムをセッティングしていると、そうるさんがやってきて、 なにやら、あれこれと僕のドラムをいじりだした。
若手イビリかぁ!と思ったが、彼にとっては親切なアドバイスだった。
いよいよ僕のレコーディングの番がやってきた。
幸い、そうるさんは帰って行った。
しかし始まってしまうと、意外にも緊張やプレッシャーは無かった。
と言うより、むしろ緊張やプレッシャーは吹っ飛んでしまった。
なぜなら、僕は、ものすごく興奮し、感極まっていたからだ!
それと言うのも、僕は高校生の頃、日本のバンドブームにおもいっきり影響を受けており、 ストリートスライダースにいたっては、僕にとっては神様だった。
当時はスライダースのビデオを、すり切れる程見て、髪型もファッションもまるっきりマネをしていた。
そのギター蘭丸が僕のドラムにあわせてギターを弾いているのだ!
ちなみにベースは元バービーボーイズのエンリケさんで、 当時は当然バービーも聞いていた。
そんな2人と同時に音を出している、興奮しないわけがない! 感極まった。
当時の俺なら気絶していたかもしれない。
なにか、こう、まさにトランス状態で演奏していた。
僕にとっての記念すべきセッションを数テイク録り終え、みんなで聞いてみた。
誰の意見に耳をかすでもなく、はたして蘭丸さんは、なんて言うだろうかとドキドキしていた。
その時、蘭丸さんが僕の方を見て、こう言った。
「牟田君、いいグルーブしてるねぇ、仕事くるよ」
これ、ハッキリ言って自慢です。なので、もう1度繰り返します。
その時蘭丸さんが、こう言った。
「牟田君、いいグルーブしてるねぇ、仕事くるよ」
あまりにうれしく、ちょっと体がふらついた。
あれから一ヶ月、いくつかのうれしい出来事が起こった。
エイベックスの夏のイベントで、佐田真由美のバンドとして、蘭丸さんと一緒にプレイする事になった。
そして、なんと蘭丸さんと吉田健さんのプロジェクトバンドにドラマーとして呼ばれた。 そして、そして、なおとのプロモーションCDが、ひょっとしたら、デビューCDに・・・
いや、これはまだ未定中の未定なので、わかりませんが。
風は吹き始めた。
この流れを止めぬよう、このグルーブを止めぬように、今日もスタジオに向かう。