3羽の小鳥がいた。
名前はレッド、ブルー、オレンジ。
3羽はユキというやさしい少女と一緒にマンションの一室で暮らしていた。
寝る時と食事をする時以外はカゴを出て、部屋の中を自由に飛び回る事が出来た。
その整頓された植物のたくさんある部屋はそれなりに居ごごちが良かった。
ユキの出してくれる食事にも満足していた。ユキの笑顔や歌声も大好きだった。
3羽はそれなりに幸せな生活を送っていた。
しかし3羽にはどうしても果たす事の出来ない大きな夢があった。
それは窓の向こうに見える大空を飛び回る事だった。
なかでもレッドの思いは強かった。
しかし3羽がカゴを出て部屋の中を飛び回る時、大空へと続くその窓は決して開
けられる事はなかった。
3羽はよく、外の世界を想像して夢を語りあった。
レッドは「いつかきっと外の世界へ羽ばたけるチャンスが訪れるはずだ」と強く語った。
ブルーもレッド同様「いつか外の世界へ飛び立つさ」と言った、がしかし、内心、自分が本当に大空を飛ぶ力があるのかどうか自信がなかった。それでもいつか外の世界へ出られた時のために、部屋で長時間はばたく練習をしていた。
オレンジも「いつか外へ」とは言っていたが、実はレッドやブルーより遙かに外の世界への恐怖心を持っていた。そしてここでの生活もキライではなかった。言い出せずにいたが、このままでもいいと思っていた。
ある日ユキは窓を閉めるのを忘れたまま買い物に出かけてしまった。
3羽にとって、あの大空を自由に羽ばたける決定的幸運が突然訪れた。
レッドは狂喜乱舞した。そして叫んだ。「さぁ飛び立とう今がチャンスだ!」
レッドは当然、みんなですぐにでも飛び立つものだと思っていた。
しかしブルーとオレンジはとまどい悩んでいた。
やはり外へ出てからの生活に不安があったからだ。
するとレッドが叫んだ。
「勇気を出して一歩踏み出すんだ!」
「うだうだ考えてるとスピードが落ちる」
ブルーが答えた。
「俺たちは本当に外を飛べる力を持っているのか?」
オレンジも続けざまに言った。
「僕らは今だかつて一度もこの部屋以上の距離を飛んだ事はないんだぞ、それに食事はどうしたらいい?」「自分の身を守る事をもっと真剣に考えよう」
レッドは言い返した。「そんなの自分の恐怖心に対する言い訳だろう」
オレンジは答えた。「ユキが悲しむぞ、毎日おいしい食事をもらっているじゃないか」
レッドは言った。
「キミはどこを向いているんだ」
「俺達は人の幸せのために生きているんじゃない、自分の幸せのために生きなければいけないんだ」
「人間は忘却の生き物だ、いつか忘れる」
「俺達は翼をもって生まれてきたのは、大空をはばたくためじゃないのか」
「キミはこのまま一生を終えるのか」
レッドの言う言葉には説得力があった。
ブルーとオレンジは返す言葉が見つからなかった。
ブルーもオレンジもレッド同様、外の世界へ飛び立ちたい気持ちにかわりはなかった。
レッドの言葉は胸に響いた。
しかし外に出るのは怖かった。
本当に大空を飛べるのか?食べ物は得られるのか?敵がいるのではないかと・・・誰もが思う当然の恐怖を抱いていた。
ブルーは思った。
「俺達はいつも自由が欲しいと叫びながら今日も支配に甘えているではないか」
目の前にチャンスが訪れているにも関わらず、その後の生活が怖くて現状を捨てられない自分にブルーはいらだった。
うつむいたままのブルーとオレンジにレッドはさらに叫んだ。
「俺達の生涯は意外に短い」
「何年かに一度自分をだめにするような革命を起こさないと次へは進めないんだ!」
ブルーはうじうじしている自分にキレた。そして叫んだ
「俺はこの部屋を出る」
ブルーは、俺は日頃から体力アップをはかっていたんだから大丈夫さ、と自分に言い聞かせた。
オレンジも続いて「僕も」と言った。
3羽は大空へ羽ばたくため、初めてベランダに出た。そして驚愕の事実を知る事となった。
ここは高層マンションの22階だった。
3羽はおびえた。
そんな中、意外にもブルーが最初に飛び立った。
続いてレッドも負けじと飛び立った。
1羽残されたオレンジも意を決して飛び立とうとした、その瞬間だった。窓を閉め忘れた事に気ずいたユキがあわてて戻って来た。
そして今にも飛び立とうとするオレンジを見るなり絶叫した。
「やめて・・・あなた達は飛べないの・・・小さい時に私が羽を短く切ってしまったのよ」
レッドとブルーは初めての大空を楽しんでいた、お互い目を見合わせ微笑みあった。
2羽はチャンスを生かし自由を手に入れたかのように見えた。
しかしその微笑みは長くは続かなかった・・・。
レッドとブルーはだんだん胸が苦しくなり、呼吸が激しく鳴りだした。
はばたいてもはばたいても思ったように飛べないのだ。
2羽は徐々に失速しはじめた。
レッドは目の前が真っ白になり、やがて空中で気絶した・・・。
ブルーも気絶しかけたが、死にものぐるいではばたき、どうにか大きな杉の木にたどり着けた。
ユキはオレンジをカゴに入れるとすぐさま外へ走りだした。やがて地面に横たわるレッドを見つけた。
ユキの瞳から、とめどとなく涙があふた。
レッドは息をしていなかった、しかしそのレッドの顔は微笑んでいた。
頭上からピーピーと聞き慣れた鳴き声が聞こえた。ブルーだった。
ブルーは弱々しくもしっかりと大空へ飛び立って行った。