SHORT ESSAY
   


 

 な か な お り

 18才で一人暮らしを始めた私の傍らには、 その2ヶ月後から生活を共にしてきた1匹のネ コがいました。

 新宿の伊勢丹にある屋上で目が合ったのが きっかけでしたが、毛玉のような愛くるしい 姿に一目惚れしてしまい、閉店まで悩んだ末 の衝動買いでした。

 生後2ヶ月足らずの雄のヒマラヤン。

 それまで動物を飼ったといえば、セキセイ インコに始まり、緑亀、ハムスターまででし たから、子猫を部屋に持ち帰った日は、お互 いが見つめあい、探りあいながら緊張した時 間を過ごしました。

 当時住んでいたマンションの家賃と同額だ ったヒマラヤンで可哀想にも「家賃」と呼 ばれると振り返る様になり、それではあんま りだと値段を上げて、「ミリオン」と命名し たのでした。

 それから16年の年月を、同居人として暮ら し、2000年、10月1日、静かに私の腕の中で 眠るように息をひきとりました。

 ペットは、いつか死んでしまう時の事を考 えると辛いから飼いたくない、と言う人も沢 山います。私自身、自分の分身となってしま ったミリオンの死については、年をとっても 元気で走り回る姿に、その日は永遠に来ない 様な錯覚に陥っていたのです。

 でもその日は、突然に訪れました。

 地方での仕事が続いていた私が無事に仕事 を終えて東京に戻り、再び海外に出発するま でのわずか3日の休みの間に、ミリオンは急 激に死へと向かいはじめたのです。

 まるで私のスケジュールに合わせてくれた かの様に食べることを拒否し静かに刻々と違 う世界に行く準備をしているようでした。

 病院での治療も無駄だと分かり、自宅で看 取りたいという意志を尊重してもらい、その 3日間は徹夜で、意識の朦朧とするミリオン に付いてまわり、泣きながら「死なないで、 死なないで」とばかりくり返していました。

 今思うと、私がお別れを覚悟出来るまで ミリオンのほうが気を使い、最後の命の灯火 を必死に持続させようとしてくれていた気が します。

 「死なないで」と願う私の言葉が「ありが とう」と変わった時、泣きつかれている私の 元でスッと立ち上がり、もう諦めていた餌を 淡々と食べる凛々しい姿を見せてくれました。

 そして翌日、心臓の鼓動が止まり、何度も 小さなため息を付くようにのどを鳴らし、そ のまま天国へと旅立ったのです。

 後から聞くところによると、多くの飼い猫 が、死を迎える前夜、飼い主に対して一瞬だ け、元気な姿を見せることがあるのだそうで す。その事を「なか直り」という言葉で表現 するのだそうですが、文字どうり、人間と動 物との間の仲直りなのかもしれません。

 会話を交わす事は出来ませんが、その分大 きな愛情と生命の尊さを教えてくれました。

 ペットロス症候群になるだろうという不安 は、常々持っていましたが、現実には、あま りに潔く、美しい死への姿に直面したことで 悲しみよりも、感動と感謝の気持ちだけが残 りました。

 分身をなくし、自分が半分になってしまい そうな心細さとは全く逆に、これからはずっ と側にいてくれる心強さと暖かさを与えてく れたようです。

 生まれてきたものには、必ず終わりが訪れ ます。当たり前のそのことが、あまりに非現 実的でその事を忘れて生きてしまいますが、 私の心臓も最期の鼓動を打つ時は必ずくる事 を今さらながら痛感させられました。

 今はただ、「ありがとう」という言葉を百 万回繰り返しても、足りないくらい感謝の気 持ちでいっぱいです。

 どうか天国で安らかに・・・。

 

 


 

 

 

 

 

 

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