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平成19年5月1日発行カレント月刊5より

日本は"脱欧入亜”の道を歩め

世界の中の日本を見据えた元総理の提言

日米安保と対中政策が要諦

―今日は日本を取り巻く国際情勢についてお聞きします。
日本は防衛・経済面でアメリカと仲良くしなければいかんともし難い状況です。
特に防衛面では北朝鮮や中国などに脅かされているのに、
アメリカは有事の際に本当に助けてくれるのかという議論もあります。
六カ国協議では北朝鮮から「アメリカの一州」のように言われたことさえあります。
日本は果たしてこんなことでいいのでしょうか?

私は北京大学の名誉教授でもあります。
先だって中国で学生を前にした講演では、
総理経験を踏まえてこう述べました。
「今日は率直に申し上げたい。
中国が近代国家になるために起こした辛亥革命(一九一一年)は有名ですが、
その先頭に立った孫文の協力者として日本に梅屋庄吉という富豪がおりました。
梅屋は孫文に私財を投じ、それを元に孫文は、
アジアは一つという『大アジア主義』を主張し、
日本では進藤一馬、中野正剛、頭山満らが国の
世論にして辛亥革命を成功させました。
中国が今日のようなすばらしい国になるための基礎をつくる時、
日本がお役に立った時代もありました。
また、日本は戦後アメリカのおかげで経済発展し、
パーキャピター(GNPの一人当たりの額)は中国を上回り、アメリカを越えました。
日本が隆々とやることができるようになったのは、
自由と民主主義がいいものだったということの証で、
アメリカには率直に感謝しています。
中国はこれから、どうされるのでしょうか?」と。
そんな話をすると、以前は中国の学生から反発されましたが、
最近はびっくりするくらい反発も反応もありませんでした。

―一時は反日デモなどが激しかったけれども、
日本に対する態度も大分変わったということですか?

抑えているんでしょう。
中国を(首相として)訪問したのは天安門事件(一九八九年六月)の後の一九九一年でした。
「天安門事件の話はあまりしないで下さい。
どうしてもおふれになるなら『六四風波』と言って下さい」
と言われた記憶があります。

それはともかく、天安門事件は、
「戦車で学生を蹴散らしたわけですから、民主化のためには
もっと努力しないと通用しませんよ。
今、日中貿易は日米貿易を追い抜いて一番になっています。
それほど日中関係は密になっています。
日本も中国にいろいろ世話をかけたでしょうが、
日本は中国の世話もしているはずです。
そのことも覚えておいて下さい」と言いました。

―中国の日米安保に対する反応はどうですか?

日米首脳会談の時、当時アメリカは天安門事件で
中国に対して経済制裁を加えていて、
ブッシュ大統領から、
「俊樹!サミットのこともあるから、中国へ行くのはやめてくれ!」
と言われましたが、私は
「中国は無視したり孤立させたりするのはよくない。
抱き込んで、話をしながらできるだけ同化しなければならない。
共に生きていかなくてはならない」
と言って中国に行きました。

当時は、日米安保についても、中国のリーダーたちは激しく日本を批判しました。
日本でも社会党の委員長などがかって
「アメリカ帝国主義は日中共同の敵だ」
とまで言ってましたが、私は、
「日米安保条約は、日本の戦後の成り立ち、成り行きから言って、
この道しかないと思って選んだのであるし、
国民が豊かになってきている。
中国もアメリカと仲良くすべきだ。
将来、歴史家がどちらの選択が良かったかを決める時が来るでしょう」
と言いました。

共産主義が市場経済を飲み込んだ中国

―中国の市場主義経済についてはどうご覧になりますか?

この三月、中国は全人代を終えましたが、
温家宝首相は演説で「社会主義市場経済を達成させて」
という言葉を随所に使っていました。
日本的な感覚では社会主義と市場経済は
相容れないものですが中国は違います。
ケ小平の「南方講話」の頃から、主義主張は主義主張、
儲けは儲け、実利主義が入ってきて、
儲けなければ豊かになれないということで実利主義に傾斜していった。
「資本主義が育ててきた市場経済を社会主義が育てる」
とおっしゃる。

「社会主義・市場経済」として、あいだに「・」を打てば、
相反するものでも一緒に考えようとする歴史の長い国だから
そうやって飲み込んで消化してしまう。
それほど中国の懐は深いと感じました。

それはともかく、
国民が豊かになり幸せにならないと、
国内に革命や動乱が起こるし、国民がすべて豊かになり、
幸せになれば、その国は安定してきます。
お互いに相手の国の歴史については、
これ以上踏み込んだり批判したりしてはいけないし、
大きな流れの中で中国がそうなることはいいことだと思います。

―中国は共産主義国家だということを我々は時々忘れがちです。

芯は共産主義国家です。
敵にしてもよくないし、孤立させてもよくない。
暴発されたらたまったものではありません。

四年前の同時多発テロ(九・一一)のちょうどその日、
江沢民と会談するために北京に滞在していたのですが、
会談の席で私は開口一番、
「ゲストである私がホテルでテレビのスイッチを入れたら
ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込む映像がそのまま見られた。
中国はここまで情報公開するようになり、
民主的になったことにびっくりしました。
そのテロリストたちに余計な挑発をするなということを、
中国も声を大にして言って下さい」
と言っておきました。

あのテロを見た時の中国人は、日本人ほど反応はなく、
冷ややかでしたが、中国は国内の暴動に手こずるようになって、
徐々にテロの驚異がわかってきたのではないでしょうか。

―中国にはミサイルを撃ち落す技術もあるし、核も持っている。
軍事費もどんどん上がっています。
その点は議論されましたか?

北京大学でのことですが、ある教授が、
「確かに軍事費は二〇パーセント近い伸び率が続いていますが、
解放軍の兵の処遇を良くするためにかかっている費用が多いんです」
と言っていたので、
「ちょっと待ってください、私は二つの出来事で背筋が寒くなりました。
一つは昨年暮れ、太平洋上で中国の潜水艦がアメリカの航空母艦を魚雷発射
できる近距離で尾行していたこと。
もう一つは宇宙空間の平和利用を主張してきた中国が、
人工衛星を弾道ミサイルで破壊してしまったこと。
それらは驚異です。
中国は恐ろしい行為をしている。
そんなことではアジアの共生はできない。
日本は防衛白書で手の内もさらけ出しているから、中国も見せたらいい。
それが安心に繋がります。
中国が武力を使い出したら、アメリカも黙っていない。
痛み分けと言うわけにはいかないでしょう」
と言っておきました。

―他国の派兵は許されないのに、自国の派兵はいいと言うのでは、説得力がない。
中国は覇権国家でもありますね。

中国は「先制攻撃をしなければいいだろう」
「周辺国家は黙ってみておれ」
ということですから形を変えた覇権国家と言えます。

日本は"脱亜入欧"から"脱欧入亜"へ

―そんな状況で日本はどうすべきですか?

アジアの国々、特に中国や韓国が過剰反応するのは、
日本が武力を強化して、昔のように動き出したら危ないというので、
それを抑えなければという思いがあります。
さらに、集団的自衛権の問題にも神経過敏になっているようですが、
「憲法九条をなぜ変えるんだ?」と聞くから、
「あなたの国が日本の憲法九条のような条項を設けるなら話は別だが、
そうでないなら他国のことを言うべきではないでしょう。
ただし、私は九条を変えようといってはいない。
共生の精神で行こうと思っているので間違えないで欲しい」
と釘を刺しておきましたが、中国や韓国の学者達は
九条を常に引き合いに出したがりますね。

―中国、韓国は日本の軍備強化を警戒していますが、
タイ、マレーシア、シンガーポールなどの東南アジア諸国は、
「むしろ中国が驚異なので、日本もそれに対抗して欲しい」
という論がかつてありました。
そうした見方は現在どうですか?

たしかに、例えばマレーシアやフィリピンの人たちの中には、
「日本にもうちょっと強くなってもらって、
中国の抑えになってもらいたい」という意見があります。
日本が海外に向けて掃海艇を出したとき、
「寄港して油を補給したい」と言ったら。
マレーシアやフィリピンは了承してくれたし。
「しっかりやってくれ」
と期待してもいました。
日本はアメリカ一辺倒で弱くならず、
もう少し強くなって、アジアの日本としてもう一度やって欲しいということでした。
「福沢諭吉になってくれるな」と言われたこともありますが、
それは福沢諭吉の"脱亜入欧"を指してのことです。

―"脱亜入欧"から"脱欧入亜"ですね。
京都会議その他で環境問題に取り込んでこられた専門家として伺います。
アジアでは中国やインド、ロシアはCO2の大量排出国です。
この問題についてはどうお考えですか?

上海の工場を見学した折、
「日本の技術で比較的安価な簡易脱硫装置があり、
一〇〇%は除去できないものの、
七、八〇%は除去してから放出するものがある。
せめてそれをつけなさい」と申し上げたことがあります。
竹下内閣で一時ストップしていた中国へのODAを
海部内閣で再開しましょうという時の話ですが、
「環境問題のテーマに限ってまず再開しますよ」
と言って再開しました。
これが成果を上げれば、結局日本にもいい影響を与える。
いろいろ意見はあるでしょうが、
降ってくる雨の中から環境破壊物が取り除かれるのは我々の利益ですし、
中国にただやれといってもなかなかできません。

―中国は横砂で日本に迷惑をかけているので、
「ご迷惑をかけています」くらいのことを言うのが日本人の感覚ですが、
中国では言いませんね。

今の中国は昔とは違います。
自分の都合のいいように言います。
天安門事件を「六四風波」と言い換える国ですから。

時宣を得た教育基本法改正

―中国を中心にお話を伺ってきましたが、最後に安倍政権についてお尋ねします。
総理経験者としての助言をお聞かせ下さい。

全体的に見れば安部さんはよくやっています。
総理就任早々、中国、韓国との関係にいち早く手をつけて、
首脳会談ができるようになりました。
中国側にも新しい問題もあるので、
そろそろ日中関係を正常化しないとという事情があり、
双方の利害が一致したということもあるでしょう。
これは国民にそこはかとない安心感を与えたと思います。

安倍総理が私のところに就任挨拶に来た時、
私はこう申し上げました。
「最後は自分で決めなければなりません。
しがらみの中でものを決めていったら困ることが起こります。
心を鬼にしなければならない時があるでしょう。
私は父上の晋太郎先生にご指導頂いた。
父上の心の豊かさも知っています。
小泉総理がやってきたことは間違いだとは言いたくないけれども、
少しやりすぎました。
法案に反対した人に対して選挙で党の公認を与えないところまではいいでしょう。
しかし、刺客を送り込むのはこれまでの自民党になかったこと。
それだけはあなたの父上もやらなかったはずです」と。

―小泉さんは、路頭に惑わせた挙句、逃げ道を塞いでしまいました。
もう少し惻隠の情があってよかったのでは?

惻隠の情を扱った本が売れているそうですが、
聖徳太子の十七条憲法で有名な
「和を似て貴しと為す」が「逆らわざるをむねとする」
と続くのはあまり知られていない。
良い悪いは別にして、それが日本の文化であり心で、
今は癒しの政治の時代です。

―小沢民主党についてはどうご覧になりますか?

公の立場で言わせて頂けば、民主党のマニフェストで目玉は実現してないし、
マニフェストを実現しようとするなら「消費税は一五%必要です」と、
税財源まできちっと示すべきでしょう。
それなら本気になってきたと見ていいと思います。

―文教族の長老格として、教育基本法改正についてはどうお考えですか?

もちろん賛成ですが、政治家が国民に向かって十分に説得して
理解するような社会環境ができているかどうかと言えば極めて心配です。
昨今の主だった世論調査でも、一番の要求は格差是正。
教育基本法を始め、外交問題や集団的安全保障の問題
になってくると関心がガタッと落ちる。
また、文部大臣経験者の中で、
「教育基本法改正は戦争ができる国にしたいからでしょう」
とコメントしている人がいましたが、戦争ができる国にしたいのではなく、
戦争はしないほうがいいに決まっているのであって、
その上で戦争がなぜ起こるか、どうしたら防げるかを考えるのが政治家の仕事です。
教育基本法を変えたら、戦争ができるようになるという、
そんな薄い考えでは困ります。

―一内閣で実現が難しいと思われた防衛庁の省への昇格、
国民投票法案、教育基本法改正などが軒並み成立しそうです。
そういう意味では安倍総理は芯が強いように見受けられますが?

教育基本法に限って言えば、自民党が結党以来言い続けてきたことの
結実でもあるのでしょう。
教育改革では私も含め教育改革特別委員会に
歴代の文部大臣経験者が七人いましたが、
「歴代文部大臣の意見がこれだけ一致してるのはめずらしい。
この機会にぜひ進めて欲しい」と申し上げました。

―久しぶりに海部節をお聞きしました。
有難うございました。